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■   もったいないレイム   ■

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「あ」

 と呟いて空を見上げるとブレイジングスターが飛んでいた。
 いやさ魔理沙が飛んでいた。
 なればと小石を夢想封印とともに投げつけてみる。
 待て待て待てと叫んでいるのは魔理沙ではなく黒い服のご令嬢だ。
 今は落ちぶれてもいつか成りあがろうとなさっているG家のご令嬢だ。
 しかし現実は非常なもの。

「ふう」

 と呟いて掃除に戻る。今日は平穏な日にしたいと思っている。

「つまりは平穏などやってこないわけね」

 つまりは目の前に吸血鬼がいることが日常のわたしに、あがきなど無駄だというわけだ。
 世紀末に救世主は出現しなかった。
 そもそも必要じゃなかった。

「けれど米びつには妖精が必要なのよ」
「うちのまわりにヒュンヒュン飛んでるけどねぇ」
「ああいうトンでるのじゃなくて、絵本と夢物語にしか出てこないような綺麗な妖精さんよ」
「あれは西洋だけのものだぜ? それに妖精はもともとイタズラ好きだ。お前の知識のほうが間違ってるぜ」

 つまりはサイケ。
 サイケディリックスター。
 当たり前のように夢想封印を避けてお茶をかっ食らうコイツは、恐らく現実という名のサイケに支配されているに違いない。

「つまりはいいものばかり食べていたら幻聴を見るという話をしたいのよ」

 いや逆だろ、と口をそろえる目の前の人間と妖怪はサイケ真っ最中だ。
 毒されている。マタンゴばっかり食べているからだ。
 考えて見れば、わたしは幸せなのかもしれない。
 エレガント。デンジャラス。ビューティフル。
 規則と規律を定められたわたしは、そうマリオネットのように幻想郷という物語が存在するかぎり消えることはない。

「そう、わたしは博麗の巫女。博麗よ。幻想郷の規律、というか世界の中心。お話すすまないし。ご飯くらい食べなくても死にはしないわ」

 ことん、となぜかレミリアがお茶を台の上に戻した。
 そんなにお茶が苦かったのだろうか。
 やはり白湯(さゆ)に混ぜるのは焼酎が一番か。
 もったいないレイム。
 もったいないなんて幻覚からさめるにはショックが一番だ。アイアンショック。本体より幻覚のほうが強いのよ。

「メイドが主人より人気ありってのが紅い夢ね。紅い、紅い……こんなにも、わたしは紅白。縁起もの」
「なにを言っているのかさっぱりわからないけれど、そのメイドに食事くらい作らせるから今から家に来ないかしら?」

 なにやら青汁を飲んだような顔の吸血鬼。
 ああ、吸血鬼も青汁は苦いんだ。
 やっぱり、異種族は分かり合うことができるのね。

「素晴らしいわね魔理沙。もう魔女狩りなんて悲劇は起こらないわ」

 空がきれいだなー、なんて月並みな感想を漏らす魔理沙は恥ずかしがりや。
 うん。
 みんな良い感じでサイケディリックから解放されてきたわね。

「時代は理不尽な言論とうせ『黙れ』」

 紅符と彗星の陰謀により、わたしこと博麗霊夢の口はふさがれました。



 五分後に強制的に解放されました。


 屈服の後に甘い餌をやるなんて、やっぱり吸血鬼は信用ならないわ。
 こんなステーキにわたしの重い口を開かせるなんて。
 独立闘争は失敗しました。にくサイコー。

 涙を流す私は。
 まるで夢の国でした。