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■   魔法の未来   ■

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(※)この話は「そんな魔法の愛し方」の後日談となります。ご注意ください。



「――じゃあ、二人で報告に行きましょうか。わたしの、故郷へ」
「弾幕しにな。了解したぜ」

 そんな約束を、魔理沙と交わして。
 過ごして流れる時は、穏やかな日常として綴られる。
 ――静かに、その時は閉じられて。
 空を行く魔理沙を見送り、アリスは静かな家への扉をくぐる。
 ぱたりと、ドアが閉じられて。

「……見せなきゃいけないのは、人形じゃないのかしらね?」

 力なくドアにもたれながら、そんなことを呟いてしまう。
 呼吸が少し、荒い。
 魔理沙の想いに揺れる、アリス・マーガトロイドという自分。
 人間の言葉に喜んでいる自分は、魔界を飛び出してきたときの自分とは、明らかに違うもの。
 アリスはさきほど、強くそう感じた。
 なのに――だからこそ――アリスの心は、不思議と安らんでいる。
 正しいか、間違っているか。不完全か、完全か。
 ――そうではない、だからこそ。

「あなたのせいね」

 優しげな瞳を向けながら、魔理沙そっくりの人形に文句を言う。
 この人形だけ、手が込んでいるのは事実だ。
 ただ、似姿だけ精巧な人形を造るのは、アリスにとって珍しいことではない。
 精巧であればあるほど、外面を模せば模すほど、作業量は増える。そのぶん、人形としての完成度は増してゆく。
 巧妙な人形を造りあげること、それは、アリスにとって至極当たり前の日常でしかない。
 けれど、魔理沙の姿もまたそうして造りあげることに、アリスはなぜかためらいを覚えた。
 綿密な調査と、考察と、仕上げ。
 霊夢やパチュリー、咲夜に慧音、アリスが知り合ったある程度の知人達。
 彼女たちには、そこまで。
 魔理沙には、それ以外のなにかを考えてしまう。
 魔理沙だけは、その彼女たちと、少しだけ違う距離感にいる。
 アリスには、そう感じられてならない。だからこそ、だった。

「……これが、わたしの求めたかった結末かしら?」

 あの日々を捨てて、たどり着いた場所。

「少なくとも、わたしが選んだ道の途中ではあるのね」

 それは決して、終わることのない日々の一幕。

「それが、お母さんが欲しかった『わたし』なのか、わからないけれど」

 居並ぶ人形の顔。
 静かな時計の音。
 冷めてしまったティーの、柔らかな匂い。
 いつもどおりの自分の家。
 とても静かで、自分で動かなければ、なにもない、からっぽの家。

「……」

 視線と指先を走らせる。
 虚空へと。
 今はない風景へと向かって。
 それは、数日後の当たり前の日々。
 それは、数ヵ月後の研究成果。
 それは、いつかわからない帰郷の時。
 それは、決してたどり着くことのないかもしれない、夢に見た未来。
 期待と不安を入り混じらせて、アリスは人形を繰る。
 イメージと現実を混ぜ合わせながら、その狭間を漂う。
 本気でもなく、粗雑でもなく、ただあるがままの自然体で。
 それこそが、なにかに向かうことだと信じながら。
 人形遣いに操れるのは、人形だけなのだと。
 そう、知っているから。

「――明日は、なにを教えてくれるのかしらね?」

 自身の造りあげた人形に向けてアリスは、静かに問いかける。
 その答えは、無論、響くことはない。
 幾十、幾百の人形は、魔力の伝達がなければ、ただ生まれたままの表情をさらすだけだ。
 けれど、アリスの心はとても満たされていた。
 その答えを、いつか聞けるときが来ると、信じられるから。
 その無音が、今であること、未来でないことを、アリスは信じられるから。

「そうでしょ、お母さん――」

 ――だって、わたしはこんなにも――