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■   FAKE   ■

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 血に染まっていた。
 目の前には、人間の群れ。
 笑いながら、無差別に、見境もなく。
 陽の光に皮膚を焼かれながらも、知らない誰かを探し求めている。
 銀色の髪を持つ、私に似ている雰囲気の人間を。
 自分の能力に縛られて、円の輪にはまりこみそうな人間を。
 ――死んでしまった人間の姿を。



 この世界の私は。
 パチュリーを隷属させ。
 十六夜咲夜の血を吸い。
 フランドールの心を「マトモ」にし。
 紅美鈴を愛玩動物としていた。
 満たされない渇きから巫女の血を吸い、彼女の亡骸を人形として操った。
 それでも、渇きは止まらない。
 欲望は止まらない。
 止まらない想いは、何百年も続いてきた。
 これからも続いていく。
 おわらない。
 おわらい。
 笑う。
 愚笑。
 誰が愚かなのか?
 わからない。
 だから、笑って。
 私を見つけてくれないかしら、と叫んでも。
 新たな犠牲者の首元を求めているだけ。
 罪悪感にさいなまれながら、あらゆるものを枯れさせていく。



 意識を取り戻した先で、私は独りだった。
 誰とも出会わず、孤独に人間の血を吸う夜の生物。
 吸血鬼と呼ばれる、孤高だからこそ栄えある存在。
 私がもっとも私らしくあるべき姿。
 だからこそ私には似合わなくなった、過去の幻影。
 ゆえにもっとも、人の血に餓えている。
 愉悦と共に人間を食する、私らしい私がいる。



 暖かい温もりのなかで目をさます。
 霊夢が、私の横で吐息を漏らす。
 黒い棺の中で、二人の夜を過ごす。
 目覚めない夢に追い込んだ、二人だけの夜を過ごす。
 全てが消えるまで――私たちが消えるまで。
 私は霊夢と時を眠る。



 咲夜と同じ夜を生きる世界。
 みんなで同じ時を生きる世界。
 フランが理性ある姿で私を慕う。
 魔理沙と共に研究にいそしむパチェは幸せそうで。
 門番に誇りをもつ美鈴は気高く。
 咲夜は一寸の隙もないほどに完全な従者として私に仕える。
 そして……私の横で微笑む、博麗の巫女。

 あまりにも、私の理想がそろいすぎた世界。
 みんなが私に笑いかける。
 幸せな一時を味わうかのように。

 私も笑う。
 心と身体が分離した、どうにもならない感情で。

 幸せすぎて。
 幸せに微笑むあなた達が。
 幸せに感じる私が。
 マガイモノみたいね。
 そう思いながら。
 幸せに感じる私という自分から、逃れることができなかった。



 夢が続く。
 幸せな夢と、悪夢が入り混じる。
 あらゆる世界固有の、"運命"に"縛られた"私のマガイモノが乱立する。
 私はその世界に意識のみ迷い込み、"操る"だけしかない能力に絶望する。

 元の世界に戻れるときは来るのか。
 そして……恐れる。
 私の世界だと思っている場所も、あるひとつのマガイモノなのではないかと。






 私には見分けられるのか。
 ホンモノとマガイモノの違い。
 簡単な言葉で永遠にくり返される、悲しい"運命"を。






「おはようございます、お嬢様」

 声が聞こえた。
 開いた視界には、私の見知った咲夜がそこにいた。
 いつもどおりの挨拶をしてくれた。
 当たり前のことだった。
 でも、それは……当たり前のことではなかった。
 それが、こんなにも、胸が苦しくなるものかと知らなかった。

「……お嬢様?」

 わたしは、押し殺した笑い声を上げていた。
 流水(ながれみず)は、自分のものからでも危険だから――流さない。



 あらゆる可能性。
 もしかしたら全て夢だったのかもしれない。
 もしかしたら全て現実だったのかもしれない。

 今の私が住む世界。
 ここが、私の求めた幻想郷だとなぜ思えるのだろう。
 ここに存在するレミリア・スカーレットが、ここの幻想郷にふさわしいとどうして確定できるのだろう。

 全ては誤りなのではないか。
 全ては錯覚なのではないか。
 全ては……。

 咲夜は、完全で瀟洒な脆い人間で。
 パチェは、物静かな知性をたたえた魔女で。
 フランは、厄介で愛らしい妹で。
 美鈴は、からかいがいのある誇り高き門番で。
 霊夢は、永遠に届かぬ想い人で。
 私は、それらを愛しく想う紅魔館の主で……。

 ここが私の真実であれと。
 ひとつの在りかたであれと願っている。
 レミリア・スカーレットのふりを続けているだけなのかもしれない。
 それでも、この幻想が続くことを求めている。